夢の中へ行ってみたいと思いませんか?2
~あらすじ~
薄明りの部屋には寝返りすらうてないオカンが座っていた。
その光景に茫然自失のオハマ。
果たしてオカンは夢の国の住人と化してしまったのか?!
そしてオカンの狙いとは…?!
堂々完結!。
(↓ ここまでの話はこちらから ↓)
恐る恐る寝室に歩を進める。
果たして・・・。
それに続く言葉は
どんな表情してる?であろうか、それとも、何してるの?であろうか。
はたまた、こんなにボケが進んでしまったの?が正解なのだろうか。
脳ミソは跡形のなくとろけてしまって最早思考にならない。
思考にならないがその分感性は鋭くなっている。
と、いう事にしておく。とりあえずは。
そうでなきゃ、目の前堂々と暗がりに鎮座しているオカンと対峙できない。
そんな気がしたからだ。
徐々に明らかになって行くオカンのシルエット。
何やらもぞもぞとやっている。
立ち上がろうとしている。
普段は専ら車椅子かベットの上での生活だ。
筋肉という筋肉は衰え、痩せた尻が重く持ち上がらないようだった。
「ちょっ、なしたん?」思わず声が出た。
こちらを向いたオカンの顔は笑みをたたえている。
「・・・」微妙だ。清々しい笑顔ではあるものの、その視線はややピンぼけ明後日を
みているような目でもある…ようなそうでもないような…。
何とも微妙な表情だ。 案の定、感性もとろけていた。
「あのさ、クローゼットに…」オカンがよどみなく続ける。
その声は健やかだった。
普段のパーキンソン病患者特有のか細く、呂律の回らないくぐもった言葉ではなく、太くクリアな健常者の健やかな声に違わなかった。
「…そっか、本当ならオカンはこんな声だったんだよな…」といつかのオカンがフィードバックしてくるが感傷に浸っている場合でもない。
今のオカンは必死に腰を上げようとしているオカンだ。そしてクローゼットに向け手を伸ばしているオカンだ。
それに手が届くように介助する。
だが、何故だ?!
何故にクローゼット?日付けも替わろうとしているこの時間に??
何を取ろうと?? 今でなきゃダメなのか??
不可思議としか思えない行動にとろけまくった脳ミソは明け方の歓楽街のゲロのように
何の役にも立たずにいる。
こういう事らしい。
クローゼットに履いていない毛糸の靴下が沢山ありデイサービスに持って行って皆で分けてもらいたい。勿体ないしょ?。と。
なるほど、なるほど…なのか?!
意図は解った。だが、日の高いうちでも間に合う時間はあるのに何故、今‥‥。
そう考えるのが普通かもしれない。
だが、オカンには今がベストで同時にそれ以外ないようにも思えた。
夕食後のLードパ製剤が今になって効果が表れている。
枯渇した体に、今ドーパミン溢れがオカンを突き動かしている。
夢の中の世界などではなく、現実世界でほんのひと時、夢のようなオカンに戻ることができている。
「びっくりしたしょ? ごめんね。思いついちゃったからさ。」とおどけて笑ってみせるオカンに会う事ができている。
薬効もあるかないかも、服用する意味さえも大差なくなってしまったこの頃だ。
きっと今がベストなのだ、それはきっと私にとっても。
オカンは今日デイサービスに行ってきた。
勿論、毛糸の靴下と少しぎこちない笑顔を携えて。