打ちっぱなしに行ってきた ~選択編~
ぐるり周囲を見廻す。
良く溶け込むように。浮かないように。
ひょんな事から打ちっぱなしに来てしまった。人生2度目。
1度目は当時何才だったかも忘れるほど昔になってしまった。しかしゴルフをカジリ始めた先輩が指導らしき、屁理屈らしき事を丁寧に、曖昧に、教えてくれた。
言わば同じ穴のムジナが2匹だったわけだ。
しかし今日は違う。ひとりだ。
ゴルフ練習場+ひとり+ド素人=心細い
更には人が多い。
ムジナ2匹は自由に動き回った。自然界に解き放たれたように。
それが今では間違って人里に下りて来てしまった、年老いたタヌキ。
開いてる打席、開いてる打席と…。心で呟きながら探す。が、声が漏れてるのではないかと思うほど、目が合う。
タヌキなのに化けれていない。
そりゃそうだ。
バレちった。
溶け込む前にプカプカ浮いた。
だよね〜。そうなるよね〜。
こういう目線は分かりきった事だったので何とも感じない、
I'm OK。 重要なのは打席に入ってからだ。
問題はそこだ。フロア全体を見渡しても
人、空き、空き、人、人、人、人、空き、空き、人、人…と、空き打席はあるものの
2つしか連続していない。つまりプレシャーを間近で顔面に感じるか、後頭部に感じるか、どちらかしかない。
しばしば出くわすシチュエーション。
右の人と隣合わせるか、左の人と隣合わせるか。
先に定位置を確保し、選ばれる側だったら、多少は気も楽だ。被害者意識でいられる。 だが、選択する側はそうはならない。
自ら選んだ責任に付き合わなければならない。苦渋であり苦痛だ。
選択はいつも自由な顔して不自由を連れてくる。
こんな場所で出くわしてしまった。一気に気が重くなる。
グズグズと悩んだ末、出来るだけ穏やかそうな紳士の直ぐ背後を選んだ。
顔面にプレッシャーも受けるし、紳士がふと、力んだ瞬間屁でもこけば、餌食になることは免れない。…が、代償に体の使い方、打ち方も観察できる。
なにせ俺はド素人なのに一人なのだ。
打席14番。
ささっと席につき、購入した1000円券を機械に差し込む。
残球143。1000円=100球ではなかった。帰ったらインナー竹原に教えるとしよう。
羽織っていた上着を脱ぎ、おもむろにポッケのゴルフ手袋を取り出し左手へ。
目の前には散らかった無数のボール。
それぞれがそれぞれの思いとやり方で打ちっぱなした無数のボール。
この瞬間にも小気味いい音と鮮やかな軌跡を描いていくボール。
その奥遥かに180ヤードの文字。
そして、ぬらーりと地中からせり上がったボール。
さあ14番、あなたの番です。
ちょっ…待てよ! 今、クラブの持ち方ググってるから。
つづく